【連載】 サックス奏者 販路開拓の旅(4)始まりの旅

「東京倶楽部」の演奏会で盛り上がる観客たち=7月20日
「東京倶楽部」の演奏会で盛り上がる観客たち=7月20日(東京都内)

◆始まりの旅

サックスとキャリーバックを持って7月20日の演奏会開催地、東京へ向かいます。一番の心配事は、現地の空模様です。到着して、JR八重洲口のタクシー乗り場から空を見上げると、梅雨明けを予感させる青空で安堵しました。

JR水道橋駅の近くで夕食をとっていると、隣の方が偶然にも演奏会会場「東京倶楽部」の常連客さんでした。思い出話をうかがって、東京倶楽部の歴史に思いを馳せながら、東京で演奏するという実感が高まります。

演奏会当日は、午前中に東京倶楽部へ入りました。事前稽古を思い出しながら音響の準備を行い、物品販売の区画を設置して、いよいよ開場時刻です。

お客さんへ、ひとりひとりご挨拶します。来場された経緯をうかがったり、記念撮影をしたりするうちに距離も縮まっていきました。松江で応援していただいていた方や、懐かしい方との再会もあり、肩の力が抜けていきます。

最初の曲を演奏していると、お客さんの笑顔や身体を揺り動かす姿が見られました。東京で演奏会を開催することができた充足感で、胸が熱くなります。

曲の合間に感謝の思いを伝えていると、予定していた90分はあっという間に過ぎていきます。

最後の曲になると、お客さんが自主的に立ち上がって踊っています。スタッフさんもカウンター越しに手拍子をしたり動いたりしています。音楽に共鳴して、会場が沸き立っていく様子に私も高揚しました。

お客さんをお見送りする中、「次はもっとお客を連れてくるから、また東京でやろう!」と励ましの言葉をかけてもらいました。公演後、お客さんとゆっくり話せる時間を確保しておくべきだったと思います。こういう心残りもまた次の演奏会へと繋がっていくような気がします。

スタッフさんに「またね!」と手を振り、タクシーに乗り込みました。

名残惜しいのですが、気持ちを切り替えて次の開催地に移動しなくてはなりません。

「東京倶楽部」で演奏する宮本美香さん=7月20日(東京都内)

新幹線で広島へ移動し、「喫茶ヲルガン座」で夕食をとります。演奏会の会場「ふらんす座」と同じ建物にある喫茶店です。オーナーさんにご挨拶して、この日は早めに就寝しました。

ふらんす座でも事前稽古を行なっていたので、翌日は順調に準備が進められました。手伝っていただくオーナーさんも色々な活動をしておられます。音響を確かめながら経験談をうかがっているうちに、すっかり心が打ち解けました。

開場時刻より少し早く来場されたお客さんがいます。「以前、松江で宮本さんのサックスを聴いたことがあって9年ぶりに来ました」と言われて感激しました。また、フリーアナウンサーの柏村武昭さんと歌手の林竹洋子さんご夫妻も応援に駆けつけてくださいました。お二人とは山陰のイベントで、ご縁をいただいています。山陰での出会いが、広島の演奏会にも繋がっていることが不思議に思えます。

前日も演奏会をしていたお陰か、演奏中は調子が非常に良いと感じました。演奏会が続けば続くほど、演奏も磨かれていくだろうと想像していた通りです。

最初は賑やか(にぎやか)だった客席も、徐々に静かな雰囲気で聴き入っておられます。演奏会は、会場のお客さんと一緒に作られるものだということを改めて実感します。オリジナル曲も何曲か演奏しました。真剣に聴いていただいているお客さんの姿は、この上ない励みとなります。

最後の音を吹き終え、終わってしまう寂しさをこらえながら、旅を実現できた感謝を込めてお辞儀をしました。

バッキングトラック(伴奏の音)を流して、一人で演奏するという挑戦への不安もありました。「サックスの演奏がじっくり聞けて良かった」など肯定的な感想も多くあります。私の演奏を聞いてもらう機会を作るために、各地へ出かけて行くことを目的にした旅では、このやり方も一つの選択肢となりました。

「まずは、やってみる」

始まりの旅を終えた今、もう次の旅先を考えて、待ち遠しい気持ちです。
【宮本美香】

○ 宮本美香 ○
島根県松江市在住のサックス奏者。学校教員を経て2009年から演奏家として活動を開始。販路開拓を支援する補助金「小規模事業者持続化補助金」を商工会議所へ申請。2023年11月に採択される。採択された事業「宮本美香 ソロ演奏ツアー」の第1回目を7月に開催した。

演奏会で最後の音を吹き終えてお辞儀をする宮本美香さん=7月21日 ふらんす座(広島市内)

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