
<子どもの口は履歴書>
こんにちは。福岡県太宰府市の歯科医、太田秀人です。
前回は、「命を守る、お口の体操」と題してお話をしました。
災害時に避難所生活を快適にし、命を守る効果がある「あいうべ体操」の情報でした。
前回のお話は、こちらをご覧ください。
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【連載】歯科医「太田秀人」 太宰府から口福(こうふく)を届けます③ ~命を守る、お口の体操~
今回は、次のようなテーマです。
「災害時、避難所における生活の様子は、子どもの口の中に現れるのではないか?」
さて、毎回恒例のクイズです。
東日本大震災の被災地で、ある大学が行った調査があります。子ども達に「増えた」と報告されたことは何でしょうか?
1,爪咬み 2,指しゃぶり 3,夜泣き 4,初期むし歯
正解は、「全部」です。
「初期むし歯」とは、穴があいてはいないが、歯の表面が溶けて白くなっている状態を言います。「初期むし歯」の原因は、災害時に特有な口腔ケアの不備や、菓子やジュースなどの支援物資だと考えられています。
国立モンゴル医学科学大学歯学部で、客員教授をつとめる岡崎好秀先生は「子どもの歯は履歴書」と言っておられます。
これは、子どもの歯には日常生活の結果が現れるということです。子どもの歯の状態は、食べもので変わるのです。子どもの歯は、それを取り巻く環境の鏡だということでもあります。
災害時には「初期むし歯」が増加することに加えて、歯ぐきの腫れや出血などの「歯肉炎」が増加する、との報告があります。確かに「子どもの口は履歴書」といえるのかもしれません。

また、大きな災害に遭うと、普段起きないようなストレスを感じることになります。「爪咬み」「指しゃぶり」「夜泣き」の原因には、心身のストレスが大きく関わっていることは想像しやすいでしょう。
私は、それに加えて、「味覚障害」と「食品の嗜好の変化」も原因ではないかと考えています。
災害時は支援物資から食料を確保することが多くなります。このため糖分の過剰摂取やインスタント食品からの塩分過剰摂取が起きやすくなります。糖分や塩分の過剰摂取が「味覚障害」と「食品の嗜好の変化」を引き起こすことがあります。
被災をきっかけにした「食事の偏り」が、子供たちの成長に必要な栄養バランスを崩壊させます。これが、心身の不調和にも繫がった可能性があると思われます。
災害支援に関わった私は、歯と食事、さらに心の問題まで考えるようになりました。
その理由は次回、ある子どもとのエピソードをご紹介することで明らかになります。
【歯科医 太田秀人】


○ 太田秀人 ○
1987年、鳥取県立鳥取西高校卒業。長崎大学歯学部卒業後、2009年に福岡県太宰府市で「おおた歯科クリニック」を開業。2011年の東日本大震災・2016年の熊本地震・2017年の九州北部豪雨などで歯科支援活動を行う。その経験をもとに各地で研修会、講演等を行っている。
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