
<災害時 避難袋に歯ブラシを>
こんにちは。福岡県太宰府市の歯科医、太田秀人です。
2024年の夏、私が開業している太宰府市は「日本一の猛暑の町」として、「災害」ともいえる異常な暑さに見舞われました。猛暑日の最長連続記録40日、年間最多日数62日という記録を打ち立てました。
太宰府は海のない盆地で、気温が上がりやすい地形です。鳥取砂丘の近くで中学・高校時代を過ごした私は、山陰の青い空と白い海、そしてフェーン現象による暑さが恋しくなりました。
そんな中、縁あって今回は「災害時にも命を守るお口の情報」を、お届けすることとなりました。
突然ですが、クイズです。
台風による大雨で避難指示が出たとき、避難袋に何を入れるべきでしょうか?
①現金と保険証 ②眼鏡 ③歯ブラシ
答えは「全部」です。
どれも命を守るために重要ですが、特に「歯ブラシ」は見落とされがちです。なぜ歯ブラシが必要なのでしょうか?
それは、災害時にも「命を支える口腔環境」を守る必要があるからです。つまり「食べられる口」を守らなくてはならないということです。

(白衣で治療を行っている右の人が太田秀人さん)
【写真提供:熊本県歯科衛生士会チーム・福岡県歯科保健医療支援チーム(福岡県歯科医師会・福岡県歯科衛生士会)】
1995年の阪神・淡路大震災では、直接的な被害による死だけでなく、災害後の「関連死」が大きな問題となりました。特に注目されたのが「肺炎」で、関連死の中で約4分の1を占めていました。寒さや風邪による肺炎ではありません。口腔内の細菌が原因となった、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)ではないかと考えられています。
1999年に、特別養護老人ホームにおける口腔ケアが、誤嚥性肺炎の予防に効果があると報告されました。このことはイギリスの医学誌『ランセット』に掲載されています。災害に関わった歯科医たちは、この報告を読んで、災害時にも口腔ケアが命を守る手段になるのではないかと考えました。
しかし災害時には以下のような、4つの理由で口腔ケアが難しくなります。
① 【細菌】もともと口の中には300〜700種、1gの歯垢には約1000億個もの細菌が存在します。
② 【食事内容】避難所で配られる食事は炭水化物中心で、お菓子やジュースなどの糖分も多いため、細菌が急増します。ある細菌は40分で倍増します。約1日で1000億倍、約1日半でさらにその100万倍にもなるという報告もあります。
③【断水】水が貴重なため、うがいや歯磨きが後回しになることも多いようです。
④【歯ブラシ】避難所で配られる使い捨て歯ブラシは毛先が開きやすく、長期使用には不向きです。
このような事態に備えて、避難袋には「自分専用の歯ブラシ」を入れておくことを強くおすすめします。災害時でも、お口のケアを怠らず、「命を守る」準備をしておきましょう。
次回は、もう少し具体的に「災害時の口腔ケアの方法」についてお話しします。
【歯科医 太田秀人】


○ 太田秀人 ○
1987年、鳥取県立鳥取西高校卒業。長崎大学歯学部卒業後、2009年に福岡県太宰府市で「おおた歯科クリニック」を開業。2011年の東日本大震災・2016年の熊本地震・2017年の九州北部豪雨などで歯科支援活動を行う。その経験をもとに各地で研修会、講演等を行っている。