「戦中派の想い、若い世代へ」

時折涙ぐみながら岡本喜八監督との思い出を語った妻のみね子さん

鳥取県米子市出身の映画監督、岡本喜八(1924〜2005年)の生誕100周年を記念した上映会が今年、神奈川県川崎市の川崎市アートセンターのアルテリオ映像館で年間を通して企画されている。

岡本監督の誕生日である2月17日には、監督自身の一番好きな作品だった社宅暮らしのサラリーマンを描いた「江分利満氏の優雅な生活」が上映され、90席のチケットは上映1時間前に完売する盛況ぶりだった。

「江分利満氏の優雅な生活」は昭和30年代が舞台で、川崎市で暮らす酒好きの冴えないサラリーマンが主役のコミカルな作品だ。この日の上映会でも客席からはたびたび笑い声が上がった。

一方、終盤のクライマックスでは主人公が若手社員を相手に、同世代の多くが亡くなった太平洋戦争への想いを長々と語る場面がある。単なる戦争への批判や不満ではない複雑な心境が切々と吐露され、観客は引き込まれた。

上映会後には岡本監督の妻で映画監督、プロデューサーのみね子さん、娘で女優の真実さん、その夫で元テレビ局プロデューサーの前田伸一郎さんがトークショーを行った。

みね子さんは、クライマックスのシーンについて、岡本監督は「これが伝えたくてこの映画を撮ったのだと思う」と語り、短いカットを連ねる手法が特徴的な岡本監督が長回しを用いてまで訴えたこの場面への思い入れを推し量った。

映画の製作自体も1963(昭和38)年で、岡本監督や脚本家の井出俊郎氏、原作の山口瞳氏、主演の小林桂樹氏をはじめ、関わった多くのスタッフが「戦争を知る世代」だった。そんな彼らの想いがこの作品には込められている。

前田伸一郎さんはイベント後の取材に、「すでに岡本喜八に関心のある層だけでなく、若い世代にその作品を伝えたい」と語った。100周年はその契機であり、上映会とは別に新たな試みも計画しているという。

「戦中派」と聞くとお堅いイメージがあるが、アニメ映画「エヴァンゲリオン」で知られる庵野秀明監督にも強い影響を与えたとして知られる岡本映画には、エンターテインメントとしての魅力があふれている。

また、前田さんは国際情勢などを踏まえ「今の若者にとって『戦争』は遠い昔のことではなく、身近な問題になっている」と指摘。岡本作品が持つメッセージを若い世代にこそ伝えたいと意気込む。

アルテリオ映像館での上映会は1年間、作品をかえて毎月17日付近の主に日曜日に行い、夏には太平洋戦争の終戦を描いた代表作「日本のいちばん長い日」などを上映する見込みだ。

次回は3月17日、桜田門外の変を題材とした岡本監督初の本格時代劇映画「侍」を上映予定。

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