島根県大田市に「まちライブラリー」を開業した女性がいる。森口真菜さんだ。「まちライブラリー」とは、本をきかっけとして人々が集まり交流できる場所のことだ。店舗や病院、個人宅など様々な場所で運営されている。図書館とは違い、参加者が自分たちで本を持ち寄り自由に貸し借りできる。寺や駅などに設置されていることもある。
2024年11月26日、森口さんはJR山陰本線、温泉津駅近くの商店街に「まちライブラリーpukapuka(ぷかぷか)」を開店した。大田市にある「温泉津温泉」の玄関口とも言える場所に開業した。温泉津温泉は古い町並みが残り、文化庁の「伝統的建造物群保存地区」に指定されている温泉地だ。世界遺産の「石見銀山」からも近い。
名前を決める時、温泉に「ぷかぷか」浸かりながら楽しめる雰囲気をイメージした。「pukapuka」にはマオリ語で「本」という意味がある。「マオリ語」はニュージーランド先住民の言葉だ。ニュージーランドに留学経験のある森口さんは、本で人々が交流する場所としてぴったりだと考えてこの名前に決めた。
近年、読書離れや本離れが進む中、大田市地域からも本屋がなくなることになり、危機感を抱いた森口さん。興味や知識を広げること、深く学ぶ自由までもが失われる気がしていた。そんな時、「まちライブラリー」という形態があることを知る。
町民にも親しまれやすく、昔からあったかのような居心地を提供できるブックカフェにしたらどうか。大人も子供も観光客も入り混じって、様々な出会いや学びが生まれるのではないか。そう考え開業することにした。
東京都出身の森口さんは、京都造形芸術大学(当時)を卒業後、大田市に移り住む。移住のきっかけは大学1年生の時に出会った石見神楽だった。大学では舞台芸術を学んでいた。授業の一環で、石見神楽と出会った。
もともとヒップホップに力を入れていたこともあり、「舞う」ことに興味を持つ一方で、日本の伝統芸能には敷居の高さも感じていた。
当初は「神楽」に対し、ゆったりとした「見ていると眠くなる」イメージを持っていた。ところが、大学の説明会で見た石見神楽は激しく、楽しいものだった。
すっかり石見神楽に魅了された森口さんは、頻繁に温泉津に通い石見神楽に携わることとなる。
大学卒業後は、神楽をやるために温泉津に移り住みNPO法人で観光誘致を仕事とした。そんな折「なぜこんなところに来たの?」という地元の人の言葉が気にかかった。
「外への魅力発信も大切だけれど、地元の人が地域に誇りを持てるようにしたい」そんな想いが膨らんだ。
地元の人は「pukapuka」に喫茶店の要素を楽しみに来ることが多い。本を手に取るのは観光客がほとんどだ。
「それぞれに楽しみ方を見つけてもらえるような空間にできるようにしたい」と話す森口さん。
「地域に溶け込みながらも、(温泉のように)後からジンジン来るようなエネルギーを与えられるような場所にしたい」と夢を語る。
かつて、神楽や温泉がある、この町で暮らしたいと考え移住を決意した。移住してみて「島根っていいな」と感じた。
森口さんの想いは、このひと言に集約される。
「この暮らしを守りたいだけなんです」