
東京都渋谷区、JR代々木駅西口を出てスクランブル交差点を西へ向かう。「千代通り入口」交差点を右に行くと「串揚げ ひなた」がある。島根県の食材を使った居酒屋だ。
入店後すぐにカウンター席に座り、隣の席に荷物を置いた。
「そのまま、そこ使っていいですよ」
思いやりのある言葉だった。入店早々、好印象だ。
前日に入ったラーメン店では、「荷物は下のカゴに置いてください」と無愛想に言われていた。客が1人もおらず混雑時間帯は、とっくにすぎていたにもかかわらずだ。
入店した直後に、気づかいの言葉があるのと、無愛想な態度を取られるのでは店の印象が大きく違う。
「串揚げ ひなた」は、テーブル席が12席、カウンター席が7席ほどの店内だ。
カウンターには、すでに4人ほど座っている。なかほどにあるテーブル席には若い女性の2人組がいた。奥のテーブルは予約席らしく、後から若い女性の3人組が入ってきた。
女性も入りやすい、おしゃれなイメージの店内だ。男女の2人組もいた。この日の客は、多くが20代から30代と思われる。
串揚げ店なので、まずは「串揚げ おまかせ盛り合わせ5本」を頼んでみた。
「食べられないものは、ありますか?」
店員が苦手な食材を聞いてきた。
過去を振り返ってみると「おまかせメニュー」の時に、苦手な食べ物を聞いてくれた店は記憶にない。よほどの高級店でないと、この気づかいには、お目にかかれない。
そういえば他の飲食店では「おまかせメニュー」の時に、なぜ客の苦手な食べ物を聞かないのだろうか。新鮮な気づきだった。
島根の食材を使った料理としては、次のようなものがあった。
「雲丹めかぶ(うにめかぶ)」「赤天」「のどぐろ焼き」「宍道湖のしじみの味噌汁」
塩は島根県浜田市の塩を使っている。


飲み物を何にするか決めかねて、一旦メニューを置いた。このとき店員は、ほかの客の対応をしていた。店員がいなくて注文できなかったのではない。どれにするか迷ったからメニューを置いたのだ。
しばらくして店員が「飲み物お決まりになりましたか?」と聞いてきた。
飲み物のメニューを見ていたことに、離れたところで他の客の対応をしながら気づいていたのだ。すべての客に対して、わけへだてなく目配りしている印象だ。
後から来て隣に座った客は常連らしい。50歳前後と思われる。話しかけてみた。
「ここは、串揚げ以外のサブメニューも、おいしいんです」
常連にオススメのメニューを聞くと「サーモンの塩辛」だという。

島根県以外の食材も使っている。メニューを見ると、なぜか種子島産のものが目立つ。常連客の中に種子島出身者がいたことから仕入れることになったのだという。
客が会計を済ませて帰ると、店員がアルコールでテーブルを拭く。コロナ禍が収束した今、あまり見かけなくなった光景だ。衛生に気をつかっている印象がある。
この日食べた「雲丹めかぶ」の味は忘れられない。つい、おかわりをしてしまうほど、絶品中の絶品であった。


(この企画は素性を明かさずに客として来店し、覆面調査の形で見聞きした内容を記事にしています。また、取材日時点の情報をもとに記事を執筆しています)
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