島根県出雲市に、手作りの遠隔管理システムを使って、クリスマスローズの育成を行っている人物がいる。出雲市斐川町にある曽田園芸の農場長、曽田寿博(そたとしひろ)さんだ。クリスマスローズは美しさと耐寒性から、冬の庭を彩る花として人気がある。曽田さんは、約60キロメートル離れた広島県内にあるビニールハウスを、遠隔により管理している。
メーカーが販売している高度な遠隔管理システムは、高価なうえに維持費が必要となる。曽田さんの遠隔管理システムは、安価な部品を組み合わせて構築されている。インターネットの通信販売で誰でも買えるものばかりだ。制作にかかる総費用は5万円未満。スマートフォンとインターネット環境があれば、どこからでも作動させることができる。
曽田さんは、家庭用電源リモートスイッチやモバイルWi-Fiルーター、ダイヤルタイマーなどをそれぞれ単独で購入した。これらの部品を手作業により組み合わせてシステムを構築した。電源はシリコンソーラーパネルで自家発電したものを使っている。制御が個々で完結しているため、制御基板が必要ない。無線のため配線も不要だ。一般家庭用の交流電源やUSB電源を使っているため、電気工事士などの資格がなくても構築できる。
このシステムを使うと、東京都内のカフェでお茶を飲みながら農作業をすることもできる。曽田さんは、東京都世田谷区の東京農業大学で生産者向けの講演を行ったことがある。このとき、広島県内に設置されたスプリンクラーを作動させる実演を行った。スマートフォンのアプリを押すだけで見事に作動した。東京農業大学からスプリンクラーの設置場所まで約800キロメートル離れていた。
クリスマスローズは気温が上がる夏期になると成長が遅くなる。この時期に高地などの気温が低い場所に花を移すことで、成長を早めることが可能になる。種の段階から花として出荷できる状態に育つまで、通常3年ほどかかる。高地に移すこの方法を使うと、出荷までの期間を1年ほど短縮できて生産効率が上がる。
夏の間だけ高地に移す作業を「山あげ」という。曽田さんは2014年ごろに、初めて「山あげ」に挑戦した。最初は岡山県の蒜山高原に「山あげ」を行った。このときは、花に水をやる作業のために往復5時間かけて2、3日おきに現地に通っていた。交通費が高額になり、時間効率も悪い。人件費がかかるため現地に人員を常駐させることもできない。
そこで、監視カメラで土の乾き具合を監視して、遠隔によりスプリンクラーを作動できないかと考えた。試行錯誤を重ねた結果、現在の遠隔管理システムの完成に至った。おかげで今では月に1回程度、システムの動作チェックに行くだけだ。
試行錯誤の過程でいくつかのトラブルがあった。
監視カメラが濡れないように水槽をかぶせて防水したこともあった。
葉が濡れているので十分な散水ができていると思ったが、表面がわずかに濡れているだけだったこともある。ビニールハウス内に雨量計を設置することで、実際の散水量を計測できるようにした。今では、十分な量が散水されると雨量計が感知してスマートフォンに通知が来る。
曽田さんが、この遠隔システムに取り組み始めて、もうすぐ10年になる。現在では、ほとんど不都合が起きなくなった。10年前に比べて監視カメラやリモートスイッチなどが格段に高機能化し、これまで以上に低価格で購入できるようになった。
「最新の部品を適時取り入れた長年の改良により、遠隔システムはかなり良いものになった」と話す曽田さん。
今年はソーラー充電をする監視カメラを複数台設置して、多点監視の実現をめざす。更にきめ細やかな水やりを行う予定だ。