
「ファーマン・キッチン・マーケット」で自社栽培の米が販売され始めている。大阪府吹田市の青果店だ。大規模な小売業者が、米の生産を農家や農業法人に委託するケースは、これまでもあった。地域に根差した小規模な小売店が、生産を自社で行うことは、あまり例がない。
「ファーマン・キッチン・マーケット」代表の水津満共(すいづ・みつたか)さんは、米を自社で生産する計画をたてた。2025年4月から、ふるさとの島根県浜田市で米づくりを学んでいた。代表みずから農業の研修を受けていたのだ。
平日は店舗をスタッフに任せて、島根で農業研修を行う。週末は大阪に帰り、店舗で販売の仕事や経営にいそしむ。二拠点生活をつづけた。2025年9月20日ごろ、はじめての収穫を無事に終えた。
「ファーマン・キッチン・マーケット」は、2025年10月に開店10周年をむかえた。収穫した米は10周年に合わせて10月5日から店頭で販売を始めた。
水津さんは農業研修の1年間を振り返る。
「仕事の内容、つらさは想像どおりと言えば想像どおり」
研修を始めるまで、水を張った田んぼに足を踏み入れたことがなかった。ぬかるんだ土に足を取られ、バランスが取れなくて肉体的に疲れる日々だった。夏は体力の消耗がはげしく、草刈りや除草作業のときは熱中症になる寸前までいった。
それでも、師匠とのコミュニケーションは円滑だった。師匠の気づかいもあって肉体疲労以外はストレスなくすごせた。
水津さんが学んだのは有機栽培の米づくりだ。自然界と寄り添う仕事のため、奥が深い。大阪で行ってきた物販の仕事とは性質が違う。
一方で新しい付加価値の発見があった。将来の事業としての可能性を感じて、シーズンを終えた。

収穫した米を販売し始めると、米の売上が昨年対比で6倍になった。
水津さんには、従業員を島根に常駐させて米づくりを行う構想がある。新しい形の雇用や、移住者の支援と絡めた、斬新な事業プランが目白押しだ。「会社の代表が、自ら実際に農業をやってみた」というストーリーが乗ることで売上の増加につながった。
島根に対して本気なのだな、ということは伝わったとおもう。店舗に来た客に島根での生活を話すと「行ってみたい」「そんな暮らしをしたい」という声を聞く。 シンプルに「おいしい」と再度購入してくれる人もいる。
水津さんは農業事業に参入することに、さらなる可能性を感じた。農業と小売りを一貫して行うことで、生産者になかった強みをいかした相乗効果が得られる。
多くの農家は生産に専念しており、販売はJAや流通業者に任せることが多い。販売のノウハウを持つ小売業者が生産も行うことによって、販売者の目線で消費者のニーズを生産にいかすこともできるであろう。

研修を受けた1年間で、農作業の効率化に向けた改善点や、農業事業拡大に向けての課題が明らかになった。
田植えのときに、水田の端に近い「あぜぎわ」に植え込みをすると収穫が難しく、ロスが増える。2025年は、苗を植える間隔が狭すぎた。少し間隔を広げて田んぼを広く使うことが必要だ。
8月中旬から下旬にかけて田んぼから水を抜き、収穫のときに田んぼが乾いて稲刈りの機械が入りやすい状態にする必要がある。
2026年は2025年に学んだことが、いかされる年でもある。師匠から教わりながら体験し感じたことを、水津さんが自ら先回りして動く。課題に感じたことをチーム内で共有し、スケジュールにいかす。
2026年は作業のようすを動画で撮影する予定だ。販売促進の材料と、農作業の復習素材を兼ねて動画を活用する。
販売分野ではパッケージデザインのリニューアルを考えている。大阪の店舗で販売するだけではなく、生産地から消費者へ直接発送する販売網を構築する計画もある。
自社生産の米を使った、加工品も考案していきたい。米を使う商品といえば、味噌や甘酒、米粉など、さまざまな展開が考えられる。
2025年1月から3月までは、別の有機生産者へ研修にいく。次は葉野菜や根菜の栽培を学ぶ。米に続いて、自社栽培の野菜が店頭に並ぶ日が楽しみだ。
(水津さんが農業研修を始めた詳しい経緯は、こちらの記事で読めます)
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