
クリスマスローズは、冬から早春にかけて咲くキンポウゲ科の多年草だ。白やピンク、紫といった多彩な色があり、観賞用の花として人気がある。
通常クリスマスローズの種は、毎年5月ごろに花から採れる。採れたばかりの種は、成熟していないため自然に発芽する準備ができていない。採取した後に、暑い時期を経ることで発芽できる状態まで成熟する。成熟した種は、次に寒さが引き金となって発芽に至る。
自然に生育する場合、夏の暑さで種が成熟し、秋から冬にかけての気温低下により翌年の1月ごろに発芽する。開花して出荷できるようになるには、さらに2年ほどかかる。
「早期発芽(そうきはつが)」という育成方法がある。人工的に発芽時期を早める方法だ。電熱線を使って春のうちに暑さを作り出し、冷蔵庫を使って夏に寒さを作り出す。この方法だと冬を待たずに発芽させることができるため、栽培期間を短縮できる。
近年の気候変動により「早期発芽」の事情は変わってきた。人工的に暑さや寒さを作り出して種を成熟させたとしても、発芽した時は、まだ残暑が続いている。外へ出すと高温にさらされて苗が痛んでしまう。そのまま冷蔵庫に放置すると日照不足で発育が悪くなり、モヤシのような苗になってしまう。
今年2025年の夏、島根県出雲市の曽田園芸では日照不足解消のために、LEDライトを活用して発芽に成功した。全国で2例目だ。西日本では初となる。



理論上、植物の種を早期に発芽させるのは難しいことではない。クリスマスローズ以外の植物では、LEDライトを活用して日照不足を補う方法が、すでに行われていた。
クリスマスローズでも個人の趣味ていどで成功した例はある。しかし事業ベースとなると、関東にある一軒の農家しか成功していなかった。
LEDライトを使うこの方法では、初期投資にまとまった金額が必要となる。完全に確立されたノウハウがあるわけではない。失敗すると初期投資が無駄になる。試みに使った種も無駄になり翌年の生産にも影響するため、挑戦する農家は限られた。
西日本で初めてとなったこの方法は「超早期発芽(ちょうそうきはつが)」と呼ばれる。「早期発芽」を超える早さで発芽する、という意味で名付けられた。この方法を使うと、苗を約3か月早く育てることができるようになる。
近年、地球温暖化の影響から夏の暑さは厳しさを増し、残暑の期間も延びる傾向にある。今後を見据えたとき、曽田園芸では残暑対策を真剣に考える必要があって「超早期発芽」に挑戦することとした。そしてこの夏、成功に至った。


(同じ時期に蒔いた種で発育が違う)
曽田園芸では以前から独自に行ってきた他の栽培方法がある。これと組み合わせることで、今後は出荷までの期間を1年ほど短縮できることになる。
曽田園芸の曽田寿博(としひろ)農場長は、今後について次のように述べた。
「まだ不完全な超早期(栽培)を、より安定的な栽培技術にし、新たな花で皆さんに楽しんでもらいたいと思っています」
※「曽田園芸が以前から独自に行ってきた他の栽培方法」については、以下の関連記事「手作りの装置で遠隔農業」をご覧ください。


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