ティラノサウルスの着ぐるみを来た老若男女が短距離走に挑む「ティラノサウルスレース」。日本全国で開催されているが、その先駆けは鳥取県大山町で2022年4月に開催されたレースだ。一風変わったレースはなぜ人気となったのか?
大山での第1回大会と第2回大会(2023年)で優勝した「ジャギサウルス」こと増田智晃さん(31)にレースへの思いを聞いた。「ジャギ」は、漫画「北斗の拳」にちなんだ増田さん(4人兄弟の三男)のあだ名だ。
レースの存在を知った当初は参加するつもりはなかったジャギサウルスだが、友人に誘われ参加を決めた。当日、会場に到着すると事前にコースを確認。参加者全員でラジオ体操をしてからレースを走った。予選レースでは山形県から来たというアスリートに負け2位だったものの、決勝ではコースの起伏を読んで優勝に輝いた。「普段走っていないから上位に入れるとは思わなかった」と振り返る。
ティラノサウルスの姿で走るのはどんな気分なのだろうか?
ジャギ曰く「暑いし、手は動かしにくいし、足も短い。視界も狭いし、ずれやすい」。
そんなティラノサウルスレースだが、魅力もある。ジャギにとっては、制限のある中でどうすればより速く走れるかを工夫するのが楽しみだが、それだけではない。「準備運動や走っている姿をはたから見るとシュールで、かわいくて面白い。セーラー服を着たり、背中に何かを背負ったり、速さよりも見た目を重視する参加者もいる」
4月に予定されている第3回大会で優勝し「殿堂入り」することを目指す。
大山での第1回大会は100人、第2回は200人が参加し、今では全国各地に広まったティラノサウルスレース。そんな様子を大山大会主催者の川本直樹さんは「ティラノサウルスはこんなにいたんだ」と驚きとともに受け止めている。
きっかけはYouTubeで話題になっていた海外の動画。アメリカの競馬場でティラノサウルスが走っていた。動画は会社の運動会で、走っていたのは社員だったが、一般開催すればどうなるか興味がわいた。
開催したら、集まったのは「普通の人」だった。「普通の人」の正体が実はティラノサウルスだったのだ。「人間には人間社会のルールがあってやらなきゃいけないこともある。でもティラノサウルスにはそれがない。みんな普段はティラノサウルスにならずに頑張って人間をしている」
開催までの流れをSNSで発信し、大会当日YouTubeでライブ配信したことも開催を各地に広げる後押しとなった。
川本さんは「日本ティラノサウルス保存会」を設立し、「ティラノサウルスレース」の商標登録も行った。まさに第一人者だが、「ティラノサウルスレースって何なんでしょう。なんのためにやっているんだろう。わかった人がいれば教えてほしい」と語る。
でも、一つだけ譲れないことがある。それは、
「ティラノサウルスレースは勝ち負けじゃない」ということ。
足の速さを誇るなら、他の大会に出ればいい。むしろ普段は走れないような人にこそ出場してほしいと考える。杖をついていても、車イスでも、ストレッチャーの上に乗っていたって良い。速いことが偉いこととイコールではない。みんなで一緒に走ってよかったね、そう言い合える大会を目指している。大会には出し物部門や綱引きなどレース以外のイベントもある。
ティラノサウルスレースとは何か。それは参加する人や見る人ひとりひとりが自由にとらえられるものなのかもしれない。
今年の大山大会は4月14日(日)、スカイテラス大山で開催。2月10日(土)からWebで参加者を募集する。
(※「ティラノサウルスレース」は「日本ティラノサウルス保存会」の登録商標です。)