
パワハラで会社から不当な扱いを受けた。助けてほしい。弁護士に頼むには費用が心配だ。そんなとき労働基準監督署に相談しようと考える人は多いかもしれない。パワハラについて労働基準監督署に相談しても対応できることは限られる。
パワハラ防止のために制定された法律はなんというのか。
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
正式名称はこんなに長い。一般には「労働施策総合推進法」と呼ばれる。略称は「労推法」。通称で「パワハラ防止法」とも言われることがある。
「労働基準法」などで違反があれば、労働基準監督署は事業主を調査したり指導したりできる。
パワハラ相談の場合は、労働局へ案内される場合がある。「労働施策総合推進法」の違反については労働基準監督署では指導できないからだ。
相談者の名前を会社側に伝えることに承諾して労働局に申告すれば、多くのばあい調査が行われる。法令違反があれば会社に対して行政指導が行われる。
匿名による通報や相談の場合は、ただの情報提供扱いにされることがある。会社が必ず調査されるという保証はない。
労働者は悩む。
(氏名を会社に伝えると、通報したのが自分だと知られる。さらに不利益な扱いを受けるかもしれない。でも匿名だと調査されないから何も変わらない。通報したことによる不利益扱いは禁止されている。しかし実際は不利益扱いをする会社が後を絶たない)
労働者は悩んだあげく、意を決して実名通報に踏み切ることになる。人生を投げ打つ覚悟がなくてはできないかもしれない――。
実名通報をした労働者に対して「調査結果を教えない」という運用を、島根労働局は行っていた。
2025年12月
「勤務先からパワハラによる不当な扱いを受けた」とする相談が島根労働局に持ち込まれた。
対応したのは島根労働局の職員、O氏とN氏だ。
「この相談で企業を調査したとしても結果を教えられない」旨の説明を両氏とも行った。相談者は納得がいかず説明の根拠を求めた。根拠を示すことをN氏は頑なに拒否した。
相談者が粘り強く交渉を行った結果、N氏は根拠を調べるために席を離れた。調べた結果、O氏やN氏の説明が間違っていることが明らかになった。
厚生労働省の雇用環境・均等局から出されている文書に次のものがある。
「労働施策総合推進法(パワーハラスメント関係部分)業務取扱要領」
労働施策総合推進法に関する職務の進め方が書いてある。事業所を調査した結果を相談者に教えてよいのかどうか。業務取扱要領には次のように書かれている。
「労働施策総合推進法(パワーハラスメント関係部分)業務取扱要領」第3編7(抜粋)
報告の請求等並びに助言、指導及び勧告の個々の内容については、労推法第 33 条第2項に係るものを除き、原則として公表しないものであること。
なお、労働者自らの権利回復等を目的に、当該労働者の希望により氏名を明らかにして報告の請求等を実施した場合において、相談者の不安を解消し、行政への信頼を得る観点から、報告の請求等の実施の有無及び報告の請求等の端緒となった事項に関する法違反の有無について、相談者に対し明らかにすることは差し支えないこと。
ここに書かれた「報告の請求」とは、必要な事項について事業主に資料の提出や説明を求めることをいう。労働行政機関が行う調査方法のひとつと言える。
調査結果は原則として「公表」はされない。「公表」とは文字通り公に発表することだ。マスコミに発表したりインターネットに掲載したりすることであろう。
しかし相談者本人に結果を教えることは「公表」ではない。権利回復を求めて氏名を明らかにすることを相談者が承諾した場合、調査結果を教えてもよいのだ。
考えてみれば当たり前のことだ。労働者は会社から不利益扱いを受けるリスクを冒して氏名を明らかにしている。法令違反が見つかったのに労働者が知らされなかったら……。
法令違反があったのに「無かった」と会社がしらを切れば、労働者は泣き寝入りするしかない。会社は、以前にも増して不利益扱いをやりたい放題となる。労働者をますます窮地に追い込むことに労働局が加担している、といわれても仕方がない。
島根労働局では「相談者に結果を教えない」という誤った対応が行われていた。2人の職員が同じ説明を行っていたということは、組織として間違った運用を行っていたことになる。
調査結果を教えなければ、覚悟を決めて氏名を明らかにした労働者をますます窮地に追い込む。
島根労働局は、なぜそのことに考えが及ばなかったのか。結果を相談者に教えても差しつかえないという規定があるにもかかわらず。
報告の請求等並びに助言、指導及び勧告の個々の内容については、労推法第 33 条第2
項に係るものを除き、原則として公表しないものであること。
なお、労働者自らの権利回復等を目的に、当該労働者の希望により氏名を明らかにし
て報告の請求等を実施した場合において、相談者の不安を解消し、行政への信頼を得る
観点から、報告の請求等の実施の有無及び報告の請求等の端緒となった事項に関する法
違反の有無について、相談者に対し明らかにすることは差し支えないこと。
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