
愛知県に「小野江音楽工房(おのえおんがくこうぼう)」がある。西尾市に主たる事務所を置き、名古屋市を拠点として、譜面制作を主な事業として展開する。注文は全国から受ける。「譜面制作を事業とする」とは、どういうことなのか。
代表の小野江良太(おのえ・りょうた)さんは愛知県生まれ。もともとチェロの演奏家だった。中学生のときに部活動で弦楽部に入ったことが、チェロを始めるきっかけだった。
高校は音楽科に進学した。チェロの演奏を学ぶ学科だ。高校の音楽科は、音楽大学以外の大学を受験するには授業の数が足りない。高校に進学すると決意した時、将来はぜったいに音楽で食べて行こうと決めていた。
2年生の終わりごろ、体調をくずして高校を中退した。中退はしたが音楽をやめようとは思わなかった。高校のときに教わっていた先生に、個人レッスンをしてもらう形で継続した。
音楽を続ける方法は見つかったが、高校を中退したことで、将来への不安は大きい。音楽大学に行かないと職業にすることはできない。
高等学校卒業程度認定試験(旧 大学入学資格検定)を取得して、大学受験に臨んだ。現役の高校卒業生よりも1年遅れたものの、みごと愛知県立芸術大学に合格した。
音楽大学に進学はできたが、そのうちチェロだけでやっていくのが難しいと感じるようになった。周りには、小野江さんよりも上手な学生が大勢いたからだ。大学3年生のころから、チェロと並行してやっていく別の道を模索し始めた。
小野江さんは演奏のかたわら、中学生のころから既存の曲を編曲する作業も行っていた。この「編曲」を将来の仕事にできないか。卒業後は「編曲」の能力をいかして起業しよう。
大学の就職支援課で、起業について相談した。音楽大学を卒業して、すぐに起業を志す人はあまりいない。ほとんど資料がなく、渡されたものも簡単な紙1枚ていどだった。
愛知県が主催する創業セミナーに申し込んだが、「クリエイター業は難しい」という理由で参加を断られた。公的な支援を受けることもできなかった。
音楽関係の起業に関する情報が少なかった。比較的情報が豊富なデザイナーやウェブ制作系の業種を参考にしながら、自分なりに置き換えて進めた。
周囲の反応は冷ややかで、「うまくいかないのではないか」という空気感があり、不安を感じることがあった。
小野江さんは試行錯誤により、新たな道を自分で切り開いていった。卒業後はチェロ演奏の仕事をやりながら、起業のために税金の勉強を行った。
さまざまな困難を乗り越え、小野江さんは2016年8月に「小野江音楽工房」を設立した。
設立後、事業はどのように発展していくのか。
(後編へつづく)
