
(第3話よりつづく)
ピン芸人の「てんてらてーんあきら」は「農家芸人」だ。東京に進出して「やさい-1グランプリ(やさいわんぐらんぷり)」で準優勝するなど、少しずつ成長してきた。
あきらは、なかなか芽が出なくて芸人をやめようと思ったことがある。
(自分には才能がないのではないか)
「おれ、農業やろうかな」
あきらは親友の前でポロっと弱音を吐いた。高校生のときから仲良くしている和歌山の親友だった。
あきらは芸人をやめるつもりで親友を誘った。
「1人で農業やっても楽しくない。農業法人をつくって、一緒にやっていこう」
親友は、あきらに答えた。
「俺は、おまえが芸人として売れるのをいちばんに応援している。もし芸人として売れなくても、和歌山に帰ってくるとしても、いちばんの味方としてここにいる。いまのうちは、あきらめるな。おもいっきりやってこい。無理だったら一緒にやろう」
帰れる場所があるうれしさと、学生時代からの親友が背中を押してくれている心強さ。
エネルギーをもらって素直にがんばろうと思えた。奮起したあきらは、怒涛のようにネタを書きまくった。
あきらには、芸人でいたい明確な理由がある。
農業に興味のある人は、自分で農業のことを調べる。8割ぐらいの人は関心がない。農家が熱く語ると、圧を感じて引いてしまう。芸人なら楽しく明るく、おもしろく農業を語れる。
農業っておもしろい、野菜っておもしろいと感じてもらえれば……。
野菜を食べてみよう、農家から直接買ってみようと考える人が増えるかもしれない。
あきらは、農業のネタしかやらない。お笑いを通じて農業に興味をもってもらいたいという信念があるからだ。
興味をもってもらえれば農家は成長できる。農業に興味をもってもらうために、あきらは芸人を続ける。

将来は、自分が育てた野菜を、お笑いライブの会場で販売する構想がある。自分の畑で収穫した野菜や果物を、手作りの「グッズ」として販売したい。
母が倒れたとき、宮崎から和歌山まで車を13時間走らせ続けたのは、専門学校時代の親友だった。
嫌いだった農業を好きになったのは、新規就農の人に楽しさを教わったからだ。
高校を卒業してすぐに芸人になるのは怖かった。背中を押したのは父だった。
ピン芸人になる道を開いてくれたのは、コンビの相方だった先輩だ。
あきらが弱音を吐いたとき、高校の親友は「和歌山で待ってるから、まだあきらめるな」と支えた。
ひとりで何かをできるわけではない。ずば抜けた才能があるわけでもない。心が折れずに元気にやっているのは周りの人たちのおかげだ。
芸名の「てんてらてーん」は和歌山弁の「てんてらてん」から取った。「てんてらてん」には「頂上」や「てっぺん」という意味がある。
多くの人々に支えられ、あきらは芸人の「てんてらてん」をめざす。
(完)

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