お笑いトリオ「安田大サーカス」の団長こと、安田裕己(活動名・団長安田)さんは兵庫県西宮市出身だが、高校時代を鳥取で過ごした。
現在「自転車芸人」として活躍する安田さんにとって原点ともいえる経験が、鳥取時代にあったという。
安田さんは地元の中学校を卒業後、鳥取市の私立鳥取城北高校に進学した。勉強よりも運動が得意でスポーツ推薦のある高校を選んだ。いわゆる「サッカー留学」で、15歳にして親元を離れて寮で暮らした。
「いきなり親元を離れて暮らすのは大変だった。実家にいたときは親が『あれしなさい、これしなさい』と言ってくれたけど、全部自分でやるしかない」と当時を振り返る。
サッカー部の練習や上下関係も過酷だった。
そんな日々で癒しとなっていたのが、鳥取の景色であり、自然の恵みだった。
西宮にいた頃は新品の自転車を買ってもらったことがなく、高校時代にして初めて「自分の自転車」を手に入れた安田さん。ロードバイクではなくママチャリだったけれど、自分のサイズに合った、さびのない自転車は早くてスムーズに走ることができた。その快適さで走る楽しさに目覚め、市内あちこちを自転車で走り回った。
特にお気に入りだったのが鳥取砂丘の西端にあたる「十六本松」と呼ばれる地域だ。砂浜や海で友達と遊び、恋人とデートもした。
中でも記憶に残っているのが、地元の子に教えてもらい、砂浜でハマグリをとって食べたことだ。空き缶を使ってその場で調理して食べた経験はいまだに忘れられないという。
海には他にもウニやカキなど西宮にはない自然の恵みがあふれていた。
自転車で走る喜びが今の「自転車芸人」としての仕事につながっているのはもちろん、鳥取での経験は安田さんの人生に大きな影響を与えたという。
「親元を離れ、まずいごはんを食べて、見たいテレビも見られなかったけれど、このころの経験が我慢強さにつながって芸人の仕事の役に立った。人生は全部つながっている」
現在、すっかり自転車に魅了され、仕事でもプライベートでも自転車に関わる日々を送る安田さん。「自転車は交通費ゼロでどこへでも行ける。車では気づけない景色が見え、ランニングでは行けない場所まで行けるのがちょうど良いスピード」とその魅力を語る。
自転車のパーツを組み合わせたり、おしゃれなウェアや装備品でファッションにこだわったり、自分らしさを楽しめるのも「ハマる」ポイントだ。
実は安田さん、最近はトランペットを習い始めたという。意外なことにこれも「自転車」がきっかけだった。
自転車にはまったのを機に、競輪に興味を持った安田さん。単なるギャンブルではなく「レースとしての魅力が短い時間にぎゅっと詰まっている」と語る。そして、そのファンファーレがトランペットなのだ。
「競輪選手にはもうなれないけれど、トランペットを吹くことならできる」
4月で50歳。新たな夢に向かって今日も邁進している。