
「ピアノと何が違うの?」
エレクトーン奏者として活動している中で、よく聞かれる質問の1つです。
同じ鍵盤楽器なので、見た目はよく似ていますが、中身は別物です。
「エレクトーン」とは、ヤマハの電子オルガンのことです。ヤマハの登録商標になっています。
エレクトーンが誕生したのは1959年です。祖先をさかのぼると、パイプオルガンにたどり着きます。誕生から66年進化し続けたエレクトーンは、いまや1台で1,080種類もの音色を兼ね備えています。
「一人オーケストラ」「一人ロックバンド」などと呼ばれるほどです。1人で何役もの演奏をすることができるようになりました。
エレクトーンを弾ける人はピアノも弾けると思われがちですが、実は簡単ではありません。
ピアノとの違いを聞かれた時に、最初に答えることは「電子楽器であること」です。次に「いろいろな種類の楽器の音が出せること」です。
金管楽器や木管楽器、打楽器、電子楽器、そして効果音や人の声など、エレクトーンは、さまざまな音が出せます。内蔵されているたくさんの楽器音を組み合わせて、演奏を完成させます。
そのため、演奏できる音楽も多種多様です。エレクトーンを弾く人は、いろいろなジャンルの演奏を求められます。


音の出し方についても、はっきりとした違いがあります。
ピアノは一度鍵盤を押すと、そのまま自然と音が小さくなっていきます。最終的に音は消えます。これを「減衰音(げんすいおん)」といいます。
それに対してエレクトーンは「持続音(じぞくおん)」を出せる楽器です。機種によっては1度押せば指を離すまで、ずっと音が出続けるものもあります。
エレクトーンは鍵盤を押した後に、だんだん音を強くしたりピッチを変えたりすることができるのです。ピッチというのは音の高さのことです。鍵盤を押し込む力を強くしたり左右に揺らしたりすることで、音量や音程を変えることもできます。
エレクトーン奏者がピアノを弾くときに、癖で鍵盤を押し込んでしまうことがあります。エレクトーンと違い、ピアノは音が変わりません。そもそもそのような弾き方はピアノにありません。ピアノのレッスンを受けたとき「弾いた後に押さないで!」と、私はよく先生から注意されていました。
鍵盤は、重さや幅も違います。
エレクトーンはピアノに比べて鍵盤がかなり軽いです。ヤマハミュージックスクールの幼児科では、最初はエレクトーンから弾くようなカリキュラムになっています。1つ1つの鍵盤の横幅もピアノより狭いため、弾きやすいです。
「ド」から次の「ド」までを「オクターブ」といいます。ピアノでオクターブを弾きにくい人でも、エレクトーンだと簡単に弾けます。
もう1つピアノとの決定的な違いがあります。鍵盤が3段あることです。エレクトーンは上に2段連なっていて、足元にもう1段鍵盤があります。
1段目は右手で、2段目は左手、3段目は左足で演奏することが多いです。右手はメロディー、左手はハーモニー、左足はベースです。(楽曲や用途によって使い方も違ってきますが)
ちなみに右足は音量や音程の調節、楽器の音のチェンジなどの細かい操作をします。

エレクトーン以外にも鍵盤を何段も重ねて演奏するスタイルはあります。たとえばシンセサイザーやキーボードです。しかし、エレクトーンのように最初から3段セットの楽器は、あまりありません。
エレクトーンは手足バラバラの演奏や細かい操作もあります。ピアノを弾く人からは「絶対難しい!」と言われることが多いです。
エレクトーンを弾く者からすると、「いやいやピアノの方が難しい!」と思ってしまいます。ピアノの鍵盤は重く、足が使えないことで両手にかかる役割が増えるからです。
どちらも違った難しさがあります。ピアノ出身の人がエレクトーンに転向するよりエレクトーン出身の人がピアノに転向するほうが難易度は高い。よく言われることです。
エレクトーンからピアノに転向するのが難しいのは、2つのことがネックになるからだと思います。減衰音と持続音の違いからくる「力の使い方」と「鍵盤の重さ」です。
ピアノとエレクトーンは、どちらも素敵な楽器なので、始める人が増えたらいいなと思います。私もピアノを弾けるようになりたいので、絶賛ピアノ修行中です!
【エレクトーン奏者 ほりピ】

〇 ほりピ 〇
山陰を拠点に活動するエレクトーン奏者。4歳からエレクトーンを始める。一度エレクトーンから遠ざかっていたが、恩師の支えでプロ演奏家の道に進んだ。2025年4月に東京都内で初の路上ライブを行うと、観客がSNSに投稿した演奏動画が280万回再生を突破した。エフエム山陰でラジオパーソナリティも務める。ヤマハ音楽教室講師。
