
私はいま、ブリスベンの大学に通っています。ブリスベンは海沿いにあるオーストラリア第3の都市で、2032年の夏季オリンピック開催地でもあります。
現在、いたる所で街の再開発やインフラ整備が進められています。私の周りでも新しいマンションが建ったり、駅が改修されたりしています。
私はブリスベンで3年間暮らしています。この街の1番の魅力は、発展した都市でありながら自然との距離が近いことだと感じています。
バス停へ向かう途中には、広々とした公園があります。そこを数分歩くだけで、色鮮やかで賑やかな鳥や、大きくて立派な樹木を目にすることができます。

オーストラリアでは、独自の進化を遂げた生物が生息しています。他では見られない生き物が多くいます。例えば、野生のオウムやインコです。日本でもよく知られる、コアラを代表とする有袋類もいます。
実は、そうしたユニークな生き物たちは、森の奥深くではなく、意外にも人が生活しているすぐ横にいるのです。
今回、ご縁があり連載を書く機会をいただきました。
私が実際に見たこと聞いたことを交えながら、ブリスベンの身近な生き物について紹介したいと思います。
第1回目は、私の家にもよく訪ねてくる「ポッサム」という動物です。
帰り道にふと気配を感じて顔を上げると、ポッサムと目を合わせることがよくあります。木につかまって、こちらの様子をじっと窺っています。
ポッサムは小型の猫ほどの大きさで、丸っこい耳に、ふさふさとした長い尻尾があります。
コアラと同じ有袋類で、オーストラリア固有の動物です。メスは腹にふくろを持っています。ポッサムの赤ちゃんはふくろの中で育ちます。
性格は臆病です。ときには自分よりも小さな鳥に追われて、慌てて逃げ出している姿を目にします。
彼らは夜行性の生き物です。日が暮れたら木の上をのそのそと移動しはじめます。
暗い道を歩いていたとき、ポッサムが私の目の前に、いきなり落ちてきたことがあります。電線を伝って移動しようとしたポッサムが、足を滑らせたのです。私はびっくりして、思わず飛び退きました。

かわいらしい見た目とは裏腹に、ポッサムの鳴き声はかなり不気味です。
ブリスベンに引っ越して間もないころ、夜中に本を読んでいたら、外からしゃがれた鳴き声が聞こえてきました。「ンガガガ……」という声です。
かすかな物音とともに聞こえてきた声は、まだ環境の変化に慣れていなかった私の恐怖を煽りました。その時は外を確認することもせず、そのまま窓を閉め、寝てしまいました。
後日調べて、声の主がポッサムだと分かっても、すぐには信じられませんでした。あの恐ろしげな声と、かわいらしい見た目が、なかなか頭の中で合致しませんでした。

ブリスベンでは、人とポッサムが自然に隣り合って暮らしています。そのため、ときにはご近所トラブルが起こることもあります。
ポッサムが電線や周りの木から家の天井裏に入り込んで、住み着いてしまうことがあります。
私も、取り込み忘れてしまったバスタオルに、フンを落とされてしまった苦い思い出があります。
町のホームセンターにはポッサム対策の道具も売られています。驚いたことに、ハエやハチの対策に使う「防虫スプレー」と同じコーナーに置いてあるのです。
それほどポッサムは、かわいらしい存在であると同時に、現地の人にとっては悩みの種でもあります。
もし、みなさんがブリスベンに来てポッサムを見つけたとしても、絶対に素手で撫でようとはしないでください。
噛まれたり引っ掻かれたりすると、傷口に菌が入り膿んでしまうことがあります。ひどいときには、狂犬病という恐ろしいウイルスに感染してしまったケースもあると聞きます。
お互いの距離感を大事にして、過度に近づきすぎないことが、共生する1つの鍵なのだと思います。
【オーストラリア在住 Haruki Umemura】


