余命宣告を受けた依頼人 死を見つめ続けた司法書士

人生について講演を行う西田千鶴さん
人生について講演を行う西田千鶴さん

大阪市在住の司法書士、西田千鶴さんが「成年後見人」の経験をいかして新しい分野での活動を始めている。人生に不安や悩みを抱えている人の人生相談を行う活動だ。法律家の枠を超えて生き方や子育てについての助言を行う。西田さんは鳥取県米子市出身。

「成年後見人」とは、判断能力が不十分な成人を保護したり支援したりする人のことだ。保護や支援を受ける人のことを「成年被後見人(以下 被後見人)」という。身寄りの薄い人や認知症の人などが「被後見人」になることが多い。「成年後見人」は「被後見人」に代わって財産管理や生活の支援を行う。

西田さんは米子市内の高校を卒業後、同志社大学へ進学する。大学卒業後は一般企業でシステムエンジニアをしていた。結婚を機に退職し、子育てとパートをしながら8年かけて司法書士試験に合格する。2009年のことだった。翌年の2010年には和歌山市内で司法書士事務所を開業する。現在は大阪市と和歌山市の2か所に事務所を持つ「つなぐ司法書士法人」の代表を務めている。

2023年10月には「ライフコンサルタント」として人生相談をする活動も始めた。「ライフコンサルタント」とは、個人の生活や生き方に関する助言を行う専門家のことだ。司法書士だけでは、困っている人に法律家としてしか関わることができない。人生に不安や悩みをかかえている人に、もっと深いところで助けになりたい。そう考えて司法書士法人とは別に開業をした。

司法書士とライフコンサルタントの肩書を持つ西田千鶴さん(左)
司法書士とライフコンサルタントの肩書を持つ西田千鶴さん(左)

成年後見人は家庭裁判所が選任する。弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選ばれる。なかでも弁護士や司法書士が選ばれることが多い。西田さんは、これまで司法書士として20人の成年後見人を務めてきた。そのうち西田さんが葬式を出した被後見人は10人いる。

法律的立場でありながら家族同然のこともやってきた。火葬や埋葬に立ち合った。遺骨を拾ったりもした。永代供養の手続きもした。成年後見人になった全ての司法書士がそこまでやるわけではない。夫婦が2人とも認知症で、両方の成年後見人をやったこともある。

成年後見人として、いろいろな人の亡くなり方を見ていくうちに「死とは何か」という探求をするようになる。死についての文献を読みあさるようになった。戦争の時に収容所に行った人の手記を読んだこともある。ガンの闘病記や医師の書いた本を読んだこともある。探求を通して、色々な人の様々な死の場面を知ろうとしていた。

死について徹底的に考えたおかげで「どのように生きるか」を考えるようになった。それがライフコンサルタントとして人生相談を始めるきっかけとなった。

ライフコンサルタントとして人生相談を行う西田千鶴さん
ライフコンサルタントとして人生相談を行う西田千鶴さん

死についての探求をやろうと思ったのは、司法書士(成年後見人)として多くの死に立ち合ったことが大きい。

余命宣告を受けて死を目前に控えた患者から、母の成年後見人になってほしいとの依頼を受けたことがある。自分の死後、認知症の母のことが心配だからと相談を受けた。最初は依頼人の死と向き合うのが怖かった。「あなたが死んだ後、どうしますか?」と聞くことができず、無意識に依頼人と会うのを先延ばしにしていた。

依頼人から激しい叱責を受けて覚悟を決めた。自分のような健康な人間と死を目前に控えた人とでは1日の重みが違う。依頼人の希望をかなえるために、亡くなった後も最善を尽くすと決心した。

依頼人と生前、最後に会った時、思わず相手の手を握りしめていた。「あなたのおかげで成長できました。ありがとうございます」そう言った後、涙が止まらなくなった。この人を全力で支えようと決意をする。

その2時間後、依頼人は息を引き取った。

依頼人が最後の力をふりしぼって怒ってくれたのだと西田さんは感じている。命をかけた叱責が、西田さんに死と向き合う勇気を与えた。

死を見つめ続けた西田さんは「今を生きることが大切」と話す。最後に笑顔でいたいからこそ、常に今を笑顔で生きることの積み重ねが大事だと考える。

歳を重ねることを嫌なことと考えず、変化を楽しみながら自分らしく笑顔で生きる人が増えることを西田さんは願っている。人生相談によって、その後押しになるように活動していく。